線維筋痛症の原因については未だ不明です。ここに一つ、2020年の学術論文「Fibromyalgia: an update on clinical characteristics, aetiopathogenesis and treatment」(「線維筋痛症:臨床的特徴、原因病理論、治療に関する最新情報」筆者訳)というのがあります(要旨は下記参照)。私は、自身の線維筋痛症の症状改善の道のりを通して、様々な療法に挑戦し、その時々の症状でかかった医療機関では良い思いも悪い思いもしてきました。この一つの論文を読んだ時、そんな自分のこれまでの経験や思いと重ね合わせて、どこかハッとさせれるというか、妙に納得するものがありました。極端な話し、この短い要旨全てにこれまでのことが凝縮されているようにさえ感じました。そこで、その要旨内容を私自身の簡潔な解釈と平易な言葉でご紹介します。
線維筋痛症は、全身に慢性的な痛みを引き起こす病気です。持続的な痛みや不快感があり、筋肉や関節など体の多くの部分に影響を及ぼすようなものです。痛みとともに、線維筋痛症はしばしば疲労をもたらします。睡眠が困難になり、ぐっすり休むことが難しくなります。線維筋痛症は、血液検査やX線検査などの日常的な検査では発見できないため、医師が線維筋痛症を特定するのは難しいかもしれません。より正確な診断基準が開発され、診断は改善されましたが、多くの医師はまだ線維筋痛症を認識していません。診断においては、医師は患者の症状や痛みの表現方法を頼りにします。線維筋痛症にはいくつかの要因が関与しています。遺伝、人生経験、心と体のつながり、ストレス対処法などです。そのため、医師は一人ひとりの状況を考慮し、個別のアプローチをとる必要があります。治療にあたっては、医師と良好な関係を築くことが大切です。医師と一緒に線維筋痛症を管理するための現実的な目標を立てましょう。線維筋痛症は多くのピースを持つパズルのようなものです。医療の専門家と密接に協力することで、それらのピースを組み合わせ、管理に役立つ最善の方法を見つけることができます。
Fibromyalgia is characterized by chronic widespread pain, fatigue, sleep disturbances and functional symptoms. The etiopathogenesis, diagnostic criteria and classification criteria of fibromyalgia are still debated and, consequently, so are the strategies for treating this condition. Fibromyalgia is the third most frequent musculoskeletal condition, and its prevalence increases with age. However, although diagnosis has improved with the evolution of more accurate diagnostic criteria, a considerable proportion of physicians still fail to recognize the syndrome. Many factors contribute to the development of fibromyalgia in a unique manner: genetic predisposition, personal experiences, emotional–cognitive factors, the mind–body relationship and a biopsychological ability to cope with stress. The multiple components of the pathogenesis and maintenance of the condition necessitate a multi-modal treatment approach. Individually tailored treatment is an important consideration, with the increasing recognition that different fibromyalgia subgroups exist with different clinical characteristics. Consequently, although an evidence-based approach to fibromyalgia management is always desirable, the approach of physicians is inevitably empirical, and must have the aim of creating a strong alliance with the patient and formulating shared, realistic treatment goals.
Sarzi-Puttini, P., Giorgi, V., Marotto, D., & Atzeni, F. (2020). Fibromyalgia: an update on clinical characteristics, aetiopathogenesis and treatment. Nature Reviews Rheumatology, 16(11), 645-660.
線維筋痛症は、広範囲の慢性的疼痛、疲労、睡眠障害、機能的症状を特徴とする。線維筋痛症の病因、診断基準、分類基準についてはいまだに議論が続いており、その結果、この疾患の治療戦略についても議論が続いている。線維筋痛症は筋骨格系疾患の中で3番目に頻度が高く、その有病率は年齢とともに増加する。しかし、より正確な診断基準の開発に伴い診断が改善されたとはいえ、かなりの割合の医師がこの症候群を認識していない。線維筋痛症の発症には、遺伝的素因、個人的経験、感情的認知的要因、心と体の関係、ストレスに対処するための生物心理学的能力など、多くの要因が独特な形で関与している。線維筋痛症の病態とその維持には複数の要素が関与しているため、多方面からの治療アプローチが必要となる。線維筋痛症のサブグループにはそれぞれ異なる臨床的特徴があることが認識されつつあり、個々に合わせた治療は重要な検討事項である。その結果、線維筋痛症の管理には常にエビデンスに基づいたアプローチが望まれるが、医師のアプローチは必然的に経験的なものとなり、患者との強固な協力関係を築き、共有された現実的な治療目標を立てることを目的としなければならない。(筆者訳)
このことからも分かるように、線維筋痛症の分野は未だ発展途上の段階にあります。そのため、自分がそれに罹患したらなおのこと、何故これほどまでに痛いのか、何故こんなにも様々な全身症状に悩まされるのか、根本原因も分からず確立された治療法もなく、これからの自分の先々はどうなるのだろうかと不安な気持ちにもなることもあるかもしれません。逆に、医療専門家の立場からしても、根本原因も根源的治療法も確立していない病を診るのは困難を伴うでしょうし、自身の経験値と知識を総動員させて医学的見地から患者と向き合うのだと推察します。私自身がそうであるように、個人差はあっても、線維筋痛症の症状は単一的ではなく複合的な場合が多いでしょう。私がこれまで繊維筋痛症と付き合ってきた中でも、後になって初めてやっと「そうだったの?」と気付くぐらい線維筋痛症に起因して生じる症状がが多々ありました。そのため、どのような療法であっても一筋縄ではいかないと同時に、まだまだ医学の進歩を待つ必要があるのだと実感しています。ただ、その一方で、患者自身が今の線維筋痛症に関する今現在の医学の位置を知っておくことは非常に大事なことだと思います。なぜなら、何も知らずにただ与えらえるがまま言われるがままに受け取っていても、先の見通しもないままにまるで霧の中を彷徨っているようなものだからです。言われたことをやって症状が改善すれば良いのでしょうけれど、それが思うようにいかない場合は、言われた通りにやっているのに上手くいかない自分を責める人も中にはいるかもしれません。そんな一方向的治療の在り方ではなく、患者と医師双方が正確に今の症状を把握し、その中で今ある医学的・医療的「材料」を共有し、共に協力し合い改善方法の選択を模索することがよりより症状改善をもたらしてくれるのではないかと思います。