線維筋痛症患者にもレジスタンス運動(抵抗運動)が必要だと言われています。レジスタンス運動による筋力や疼痛、肉体疲労、心拍変動などの改善に関する研究も報告されています(Busch et al., 2014; Ericsson et al., 2016; Figueroa et al., 2008; Larsson et al., 2015)。しかしながら、瞑想運動などと同様に推奨度は高いのですが(「線維筋痛症診療ガイドライン2017」p,210参照)、日本には線維筋痛症に特化した非薬物療法指導者がおらず(リウマチ情報センター)、かつ保険も適応外ということもあり、医療機関等において療法の一環として受けている方はあまり多くはないのではないかと思われます。
実際、皆さんはどうされているでしょうか。線維筋痛症の身体症状として「脱力/筋力低下」が挙げられていますが、私も例にもれずこの症状は割と今も顕著です。そのため、症状改善として様々な運動をやってきましたが、このレジスタンス運動だけは今でも挫折の連続です。かつて、勧めもあって100gのダンベルをほんの数回挑戦したこともありますが、完全に撃沈したのを覚えています。それではと、その後もっと軽いものやゴムバンドなども少し試してみたりもしましたが、どれも全くダメで、ほんの少しするだけで痛みやこわばりが悪化しまともに動くことができなくなりました。
ですから、今でもレジスタンス運動については「アレルギー反応」と言っていいぐらい良い記憶がありません。ただ症状が悪化して動けなくなったことだけが記憶に残っているものですから、症状改善の道のりの中で唯一このレジスタンス運動だけは避けてきたとも言えます。ただ、これは記憶の問題でもあります。脳がこのタイプの運動については悪いことしか覚えていないものですから、ついその時の状態が頭に浮かんで避けてしまうのです。
それがある時、線維筋痛症患者の運動に関する動画で(下記参照)、患者が運動後の痛みを避けるため身体活動量を減らす傾向にあると言及されていてハッとしました。そこで初めて、苦い記憶のせいで自ずと避けてしまうのは至極自然の反応であって、自分に合ったレジスタンス運動を通してその記憶を塗り替える必要があると理解しました。悪い記憶に囚われて危険回避をしていても一歩も先へは進めません。
今は少しずつ自分のペースで始めています。実際のところ、これまでいわゆるレジスタンス運動はほぼ皆無でも、全く何もせずにきたわけではありません。この運動でなくとも、まずは「痛い記憶」に囚われ過ぎないよう日常の家事や動作において少しずつ重さのあるものを運んだりするなど、日常の中でできることを繰り返し続けました。例えば、1ℓの牛乳を買いに行って家まで持って帰るというような具合です。症状が酷かった時は徒歩2分のスーパーからでさえ物を持って帰るなどできませんでした。その後も、できる日もできない日もありましたが、2分の距離ができたら次は5分の距離のスーパーから試すなど、何年もそういうことを繰り返しました。
そんな日々の積み重ねのおかげで、持てる量も距離も徐々に増え、嬉しく感じたものです。人から見れば、本当に何でもない日常の雑事でしょう。今日は何が持てるだろうかなど真剣に考えてスーパーに行く人はそう多くはないと思います。まして、商品を前にして、持って帰れるかどうか悩んで佇んでいるなど誰も想像しないでしょう。しかしながら、私にとっては大げさではなく毎回が真剣勝負でした。これを持って帰ったら痛みが悪化するか、帰って動けなくなるか、真剣に考えないと後の生活が大変です。「普通」に考えれば冗談のように聞こえても、私にとって買い物はその後無事一日を過ごせるかどうかの一大事でした。
今では以前より随分買い物ができるようになっています。とは言え、「普通」からすれば、極わずかな量でしょうし、頻繁にもできません。両手に買い物袋を抱えるなんてことは今でも無理です。どんな状態の時にどのぐらいの量を持つのか十分注意する必要があります。それでも、何とか自分で日常の買い物ができるようになったことは、私にとっては十分な進歩であり、改善です。いわゆるレジスタンス運動からは程遠くとも、日常生活の動作も一つの運動療法と捉えて、私なりの歩みを重ね、ここまでできるようになったことは嬉しいことです。
今思うと大変な日常生活だったなと思います。当時はその日一日一日が精一杯で、何も考えていませんでした。しかし、こうして改めて振り返ってみると、そうした大変だった日々があったからこそ、不便を抱えながらもそれなりに日常生活をこなせるということが本当に幸せなことだと実感します。歯を磨く、髪を乾かす、何でもないはずのことができることは本当に嬉しいものです。
病は大変、それは事実です。私も症状の悪化とともに、本当に多くのことができなくなりました。日常の些細なこと全てが難しく思えたものです。しかしながら、悪いことばかりではありません。病のおかげで何気ない日常が有難く感じられたり、意外なところで人の優しさに触れられることがあります。当たり前が当たり前ではない状況があったからこそ、感謝することが増えます。もちろん、逆に日常の「当たり前」ができないが故に人や社会の冷たさを経験することも決して少なくありません。しかし、だからこそ、人から優しさをもらった時の嬉しさや感謝の気持ちが大きくなるというものです。病は「悪」ではなく、否定するものでもありません。その瞬間の辛さやできなくなったことばかりに目を向けて嘆くのではなく、自分が今成すべきことを成し、これから先の自分に目を向けて、前へ進んでみてはどうでしょうか。以前できたことができなくとも自己実現は可能であり、病気があっても日々感謝を忘れず笑いや喜びを持って過ごすことは可能である、私はそう思います。
そして、その折々で支えてくれた家族、パートナー、その他多くの方達に改めて心から感謝します。今この瞬間を幸福と共に生きられるのは、ほんの僅かな時でもそんな全ての人の助けがあったからです。どれほどのネガティブな出来事があっても、たった一つの良い出来事が全てを良い方向へと導いてくれると私は信じています。
【参考文献】
Busch, A. J., Webber, S. C., Richards, R. S., Bidonde, J., Schachter, C. L., Schafer, L. A., … & Cochrane Musculoskeletal Group. (1996). Resistance exercise training for fibromyalgia. Cochrane database of systematic reviews, 2014(7).
Ericsson, A., Palstam, A., Larsson, A., Löfgren, M., Bileviciute-Ljungar, I., Bjersing, J., … & Mannerkorpi, K. (2016). Resistance exercise improves physical fatigue in women with fibromyalgia: a randomized controlled trial. Arthritis research & therapy, 18, 1-12.
Figueroa, A., Kingsley, J. D., McMillan, V., & Panton, L. B. (2008). Resistance exercise training improves heart rate variability in women with fibromyalgia. Clinical physiology and functional imaging, 28(1), 49-54.
Larsson, A., Palstam, A., Löfgren, M., Ernberg, M., Bjersing, J., Bileviciute-Ljungar, I., … & Mannerkorpi, K. (2015). Resistance exercise improves muscle strength, health status and pain intensity in fibromyalgia—a randomized controlled trial. Arthritis research & therapy, 17(1), 1-15.