線維筋痛症に運動は必要?

線維筋痛症は痛みやこわばり、その他多くの随伴症状を伴います。そのため、運動が症状改善の妨げとなる、あるいは症状を悪化させると考える人もいるかもしれません。しかしながら、決してそうではありません。むしろ運動は症状の改善のために必要であり、実際医学的に推奨されています。例えば、厚生労働省による線維筋痛症に関する情報線維筋痛症診療ガイドライン2017を見ても、有酸素強化運動療法や気功・ヨガ・太極拳などの瞑想運動などいくつか推奨される運動が挙げられています。

私自身、痛みを伴いながら何かしら体を動かす工夫をしてきました。病院では何もなかったため、完全に自己流かつ自己判断でしたが、今振り返ってみると意外と的外れでもありませんでした。とは言え、自己流・自己判断ではなかなか思うようにいかないのも事実です。そこで、私が参考にした線維筋痛症の運動療法についての動画をご紹介します。カナダはトロントから、痛みの専門家として様々な教育的動画を発信しているファーラン博士の「線維筋痛症:運動を始めるための初心者向けガイド」(日本語自動翻訳付)です。私自身、こうした知識をもっと早くに得ることができていればと思いますが、何事も遅すぎるということはありません。日常的痛みから解放された今の私でも有用な知識が提供されていて、今後の課題が見えてきます。もし、運動方法に困難を抱えているのならば、何かしら参考になることもあるかもしれまん。ただし、動画中にもあるように、これはあくまで教育目的のものであり、個々の患者にアドバイスを提供するものではありませんので、運動の適・不適については必ず医師に相談してください。

この動画で紹介されているエクササイズの種類は下記の3つです。
エクササイズの種類:SAS(Strengthening/Aerobics/Stretching)
・強化/抵抗運動(Strengthening):抵抗バンドなど・・・筋肉に負荷をかける
・エアロビクス/カーディオ(Aerobics):心拍数と呼吸数を増加
・ストレッチ(Stretching)

1. (00:00) はじめに:
2. (00:50) 線維筋痛症とは
3. (02:29) 線維筋痛症に運動が不可欠な理由
4. (04:30) 線維筋痛症にはどのような運動が推奨されますか
5. (04:54) 強化または抵抗運動
6. (07:26) 主観的運動強度の評価
7. (09:28) 資料をダウンロード
8. (09:36) エアロビクスまたは有酸素運動
9. (10:36) ストレッチまたは柔軟性のエクササイズ
10. (11:03) 痛みの再燃・再発

1. はじめに (00:00)
運動は線維筋痛症に適していますか。(私の)患者は運動後に痛みを感じるため、この質問をします。答えはイエスです。運動は線維筋痛症の最良の治療法の一つです。これは4部構成のビデオシリーズです。今日は最初の部分で、なぜ運動が線維筋痛症の治療の基本的部分なのか、そして痛みの再発を起こす可能性を最小限に抑えて運動習慣を計画する方法を説明します。次のビデオ(Part2)では線維筋痛症の抵抗運動を紹介します。3つ目(Part3)では、低強度のエアロビクスまたは有酸素運動を紹介します。そして、最後のビデオ(Part4)で線維筋痛症のやさしいストレッチ運動を紹介します。

2. 線維筋痛症とは (00:50)
線維筋痛症は疼痛システムの機能障害です。通常、私達の体には危険を警告する警報システムがあって、痛みのシステムが正常に機能している場合は、何かが壊れたり、怪我をしたり、病気になったりしたときに警告が表示されます。警報が誤動作している線維筋痛症では、実際に危険がない場合も警告を発し続けます。その痛みは本物であり、常にあり、体のあちらこちらに広がっています。ですから、痛いと思われる体の部位を治すのではなく、痛みの機能を再訓練する必要がある。そして、それを維持する方法の一つが動きを用いることです。しかしながら、線維筋痛症は広範囲に渡る慢性的な痛みの状態であるだけでなく、他の症状を伴う状態でもあります。うつ病、睡眠障害、倦怠感、集中力の問題、光過敏症、騒音、匂いなどがそうです。線維筋痛症でない人ならば、運動した後は気分が良くなり元気になりますが、線維筋痛症の人は、運動した後により多くの痛みと疲れを感じます。そこで、線維筋痛症の人が何をする傾向にあるかというと、それは運動後の再燃・再発を避けるために身体活動量を減らすということです。そして、彼らは非常に危険な道を歩み始めます。動きが少なくなり、線維筋痛症が悪化します。そして、さらに体を動かさなくなり、さらに線維筋痛症が悪化します。

3. 線維筋痛症に運動が不可欠な理由 (02:29)
運動後の少しの痛みはプログラムの一部であることを理解する必要があります。彼らは気分が良くなる前に気分が悪くなく必要があります。そして、その運動習慣を守り抜くことが重要です。痛みのシステムを修正して、通常の状態に戻す最良の方法は、それを再訓練することです。それを行う魔法の薬はありません。脳の再訓練・再教育は、知識と運動と心身療法の3つの要素を組みわせることで可能になります。このビデオでは心身療法については話しません。他のビデオ「mind body therapries」でお話ししています。心身療法の主な目的は運動をすることへの恐れを取り除くことです。線維筋痛症患者のほとんどが、動きに対する強い恐怖を感じています。それは理解できますよね。車庫の掃除やショッピングモールへの買い物、犬の散歩など何か活動しようとした時に、その後何日もベッドに寝た切りになったという過去の経験を記憶しています。それらの記憶は強く、脳は、それらの活動を避けるようにあなたに告げます。心身療法では、これらの記憶を別の記憶に置き換えることができます。脳は運動を再構成することができ、動きを危険として解釈する代わりに動きをヒーラー(治療する人)として再解釈します。脳の再訓練には、神経科学の痛み、体の動き、心のリフレーミングに関する知識の3つの要素が必要であることを忘れないでください。今日は真ん中の部分(Movement for the body : 体の動き)についてお話しします。

4. 線維筋痛症にはどのような運動が推奨されますか (04:30)
線維筋痛症の人はどのようなタイプの運動をすることができますか?どこから始めますか?
どの程度の痛みがどれほどのものなのか、どうすればわかりますか?(痛みの)再燃が長引いた場合はどうしますか?
運動の種類について話しましょう。まず、SASの文字を覚えてください。筋力強化(Strengthening)、エアロビクス(Aerobics/Cardio)、ストレッチ(Stretching/Flexibility)が必要です。

5. 強化または抵抗運動 (04:54)
筋力強化または抵抗運動は非常に重要です。20年前は私たちは線維筋痛症患者に抵抗運動やウェイトトレーニングをすることは勧めていませんでしたが、今はこの種の運動が線維筋痛症の人にとって本当に有益であるという有力な証拠があります。どのぐらいの頻度でこれを行う必要がありますか。週に1日から始めて週に3日に増やします。強化セッションと強化セッションの間隔は必ず48時間空けます。強度はというと、私たちの体には大きな筋肉と小さな筋肉があります。それぞれの筋肉群は異なる抵抗が必要です。抵抗は、筋繊維をパワーアップさせ、サイズアップさせます。これは筋肥大と言います。抵抗がほとんどない状態から始めて、徐々に大きくしていきます。抵抗が大きい状態で始めると、痛みが再燃する可能性がります。そして、低負荷のトレーニングしか行わず大きい負荷のトレーニングに移行しないのであれば、筋力の向上には何の効果もありません。
抵抗には何が使えますか? 線維筋痛症、関節炎、腰痛、筋筋膜性腰痛症/筋筋膜性疼痛などの他の慢性的痛みの状態を持つ人々にとって最も良い抵抗は水です。空中で動かすとき、空気の抵抗はほとんどありません。水中で体の一部を動かしても、液体はその動きに抵抗します。そのため、抵抗が少ない空中では非常に素早く動け、水中では非常にゆっくり動くことができます。水槽やプールを利用できない場合は、抵抗運動を行う他の方法を見つける必要があります。例えば、抵抗バンド。これは開いたゴムバンド(トレーニングチューブ)で、軽いものから中程度のもの、重いものまで様々です。これらは手、肘、肩に適しています。これらは閉じたゴムバンド(トレーニングチューブ)で軽いものから重いものまで様々です。足、膝、腰に適しています。手で掴むフリーウェイトで、軽いものから重いものまであります。手、肘、肩に適しています。次に、手首、足首、腰に取り付けられるものがあります。グリップ(握力等)を使わなくても運べます。ジムでこのような運動機器を利用できる場合は、可能な限り低い重量から始めて、徐々に増やします。

6. 主観的運動強度の評価 (07:26)
そこで、どこから始めるべきか、そして、あなたがどれぐらいの重さを使うべきかをどうやって知りますか?
まず、自分の限界を知る必要があります。主観的運動強度評価(またはRPE)を使用してそれを推定することができます。これは1から10までのスケールです。運動をする時は数字にします。1は、テレビを見るようなほとんど力を使わない非常に軽い運動です。2~3は軽い運動を意味し、この活動をしている間は、呼吸もしやすく会話もできます。4から6は中程度の運動を意味します。この運動は何時間も行うことができますが、呼吸は荒く、息を整えようと、短い会話しかできません。7から8は活発な運動を意味します。それはほとんど不快になる寸前です。あなたは息切れしていて、一文しか話せません。9は非常に難しいことを意味し、この運動強度を維持することは困難です。かろうじて息をし一言話すことができます。10は、最大限の努力を意味し、続けることは不可能で、あなたは完全に息を切らして話すことができません。最大抵抗レベルがわかれば、抵抗レベルを徐々に上げる計画が始めれるとよいです。レベル6あたりでトレーニングする必要があります。体を主要な筋肉群(肩、腕、背中、腰、脚)に分けます。各筋肉群は様々な動きをします。したがって、これらの主要な筋肉群のそれぞれについて、そしてそれぞれの動きについて、抵抗を使用してそれらを強化するための様々な可能性があります。次のビデオでそれらを紹介します。前回使用した抵抗の量を記録しておくとよいでしょう。抵抗を増やし続ける必要があるからです。目標は常に、筋力を高め、場合によっては筋肉量を増やし筋肥大をさせることです。

7. 資料をダウンロード (09:28)
強化練習を記録するために私が用意した資料をダウンロードしてください。

8. エアロビクスまたは有酸素運動 (09:36)
エアロビクス、または有酸素運動についてお話ししましょう。エアロビクス・エクササイズは、心拍数と呼吸数を増加させる運動です。エアロビクスのエクササイズとしてダンスを紹介したビデオもあります。しかし、他にも多くの種類の有酸素運動があります。ウォーキング、ランニング、サイクリング、水泳、スケート、ローラーブレード、ドラム演奏、階段の上り下り、雪かきなど。線維筋痛症の場合は、低頻度、低強度、低持続時間で始める必要があります。週に1日から始めて、徐々に週に3日にします。主観的運動強度評価を使用して、軽度の強度から始めて、徐々に中程度の強度にします。また、持続時間については1日10分から始めて、有酸素運動を行うたびに60分まで徐々に進めていきます。このシリーズの3番目のビデオでは、低強度のエアロビクス運動をいくつか紹介しています。

9. ストレッチまたは柔軟性のエクササイズ (10:36)
これはSASのもう一つのS(Stretching)です。週に2日から始めて、痛みの範囲内できついか、または少し違和感がある程度にストレッチを行います。最初のうちは各ストレッチを10秒間キープし、その後徐々に30秒間行います。このシリーズの最後のビデオは線維筋痛症の人のためのやさしいストレッチのデモンストレーションです。

10. 痛みの再燃・再発 (11:03)
痛みが出てきたらどうしますか? 痛みを伴う再燃・再発と遅発性筋肉痛、DOMS(Delayed Onset Muscle Soreness)を区別することが重要です。線維筋痛症の有無に関わらず、定期的に使用していない筋肉を使用した後、誰もが48時間筋肉痛があります。何か月もスポーツをしていなかった場合、そのスポーツに戻ると2~3日筋肉が痛むでしょう。それがDOMSであり、それはただの痛みであり、48時間から72時間しか持続しません。線維筋痛症の再燃・再発は異なり、3日以上続く場合があり、運動しなかった筋肉に痛みがあり、倦怠感、集中力の低下、神経過敏、めまい、吐き気などの他の症状があります。日中は倦怠感があり、睡眠障害や不眠症でよく眠れません。その場合は、全ての身体活動を止めるのではなく、できる限り最小限のことを続けてください。重量を減らすか反復回数を減らす、あるいは散歩に出かけてください。ですが、再燃中にベッドで安静にするのは避けてください。

これから運動を始めようと思っている人は、これらの重要な点に注意してください。
水中運動の場合は華氏91~97度、または摂氏33度~36度に近い温水プールにします。
現実的な目標を設定し、すぐ結果が得られると期待しないでください。利点に気づくまでに数週間かかる場合があります。これらの利点が痛みを軽減することはできませんが、日中のエネルギー量が増え、倦怠感が減り、睡眠が良くなり、気分が良くなり、社交が増える可能性があります。毎日練習することは重要ですが、休息が必要な場合は週に1日休んでください。週に1~2回だけ運動すると、意味のある利点は得られません。全ての運動を週に1日、2日にまとめて他の日は何もしないといより、毎日より少なく週に何日も運動するほうが良いでしょう。各セッションの最後には常にリラックス、呼吸、クールダウンを行ってください。日課はあなたの好きなように調整できます。できる時はよりハードに、手を引く必要があればゆっくりと。家や仕事での日常的活動も運動の一環であることを忘れないでください。家や仕事でする動きのタイプに注意を払ってください。軽度のエアロビクスをして、筋力強化やストレッチは全くしていないということもあります。その場合は、自分の運動習慣に他のタイプの運動を付け加える必要があります。中には、適切な運動を選ぶのに指導者の手助けが必要だったり進み具合を見てもらう必要がある人がいるでしょう。理学療法士、運動療法士、カイロプラクター、個人トレーナーが手助けします。しかし、彼らが線維筋痛症について精通していることを確認してください。


【参考文献】
リウマチ情報センター 線維筋痛症](fm)|公益財団法人日本リウマチ財団 (rheuma-net.or.jp)
厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』厚生労働省eJIM | 線維筋痛症[各種疾患 – 医療者] (ncgg.go.jp)
『線維筋痛症診療ガイドライン2017』 一般社団法人日本線維筋痛症学会 国立研究開発法人日本医療研究開発機構線維筋痛症研究班(編)